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コネクタの端子にめっきをするのはなぜか?Why do we plate the terminals of connectors?

コネクタの端子にめっきをするのはなぜか?

コネクタに、めっきはつきものです。ただ、めっきの種類や構成は、結構複雑です。私はコネクタ以外の業界で長年技術者をやっていた経験があります。コネクタ業界には、非技術者として数年前にやってきました。そんな私にとって、コネクタは当初わからないことだらけで、めっきもその1つでした。

図1.金めっきと錫めっきのコネクタ

一方で、以前の業界でもやや違う形で金属やめっきは扱ってはいたので、その時の知識のおかげで単純な事実認識ではなく、経験に即した覚え方ができ、助かった部分があります。そのため、金属やめっきについての理解が深まれば、コネクタを使おうというときにも役に立つのでは、また更なる知識習得へのきっかけ作りになるのではと思いまして、今回はめっきの話を取り上げました。

初級エンジニアの方にもできるだけわかりやすく説明していきたいと思いますので、お付き合いいただけるとうれしいです。

めっきの3つの目的

「めっきが剥げる」という慣用句がありますね。めっきというのはその下の地金に対して薄いので、それがはがれて素地が見えてしまうことから、「外面の取り繕いがとれて、本性が現われる」ことを表す言葉です。ここから、「めっきとは?」で思いつくのは、装飾品、特に安い金属に施される金めっき等ではないでしょうか?より安いブラス(真鍮)めっき等で、高級感を出そうと金色にするのです。ただキラキラ感を出したり、下地が変色しやすい銅等を隠したりするため、錫や錫合金(錫銅等)のめっきを施す場合もあります。このような装飾、コスメティック的な対応がめっきの目的の1つです。

めっきの目的はほかにもあります。大きく分けると3つ。1つめは、先ほど述べた装飾、コスメティックな対応。2つ目は下地金属の保護。3つ目はめっきによって機能性をもたせるというものです。

図2.めっきの目的

右の方にキーワードを示しました。順を追って説明していきます。
特にコネクタにおいて重要なのは3つ目の機能ですが、それを理解するためには2つ目の下地金属の保護において、金属の性質を理解する必要があります。そこで、2つ目の目的、下地金属の保護から説明していきましょう。

下地金属の保護としてのめっき

腐食に対する3つの強さ

  1. 1. イオン化傾向が低い(貴金属ほど錆びにくい)
  2. 2. 表面に形成されるごく薄い酸化被膜等の不動態被膜(ステンレス、チタン、アルミニウム、クロムや黒錆をもった鉄等)
  3. 3. 不動態被膜のような効果をもつ錆(銅、錫、鉛等)

2と3は割とわかりやすいかと思います。酸化物が更なる酸化を防ぐ膜となるという意味では、概ね同義で捉えてよさそうです。この被膜のような壊れにくさ(耐環境、薬品等)が腐食に対する強さになります。一方で、2や3に比べて1がどうもわからないという人が多いのではと思いますので、そちらに話を移していきます。

ガルバニ電池とガルバニック腐食

イオン化傾向の前に、少し電池の話をします。大分簡略化していますが、図3はガルバニ電池と呼ばれる異種金属を負極と正極に用いた電池のイメージ図です。電解液中にあるそれぞれの金属は、負極側では電子を奪われ酸化していきます。一方で、正極側の金属では電子をもらって還元現象というのものが起こります(酸化物から酸素が取れて元の金属に戻る現象)。この時の電子の移動によって電流=電気が発生するのです。ちなみに充電可能な電池では、“電気取り出し”のところから電圧をかけると、電子が逆の流れで動き、正極側で酸化現象、負極側で還元現象が起きます。

図3.ガルバニ電池のイメージ図

異種の金属を接触させて高湿環境下に放置してしまうと、片側が腐食するガルバニック腐食という現象が発生します(詳細は、異種金属腐食参照)が、この電池の中と同じ現象が起こっているのです。

イオン化傾向が低い金属

では、どんな金属が負極側に使われるのでしょうか?また、電流は電子の流れで決まるとして、電圧はどのようにして決まるのでしょうか?ここでようやく、イオン化傾向が低い金属が登場します。金属にはイオン化傾向というものがあって、それに応じた(電極)電位をもっています。電池の電極に使われることで、その電位は標準電極電位とも呼ばれます。図4に、代表的な金属を左からイオン化傾向の大きい順に並べています。

図4.代表的な金属のイオン化傾向

負極に選ばれる金属はより左側にある電位が低い、すなわちイオン化傾向の高いものです。よりイオン化して電子を手放しやすい傾向をもちます。陽極には、電位の高い=イオン化傾向の低いものが選択されます。電池の電圧は、正極と負極の電位の差=電位差で決まります。上に示した電位は標準電極電位と呼ばれるもので、実際の電極電位は電解液のイオン濃度で変わる等(金属同士の相対関係は変わらない)ややこしくなります。ここではポイントとして、「イオン化傾向の高い金属ほど、電子を手放しやすい」という点を覚えて下さい。これはすなわち、酸化しやすいということになります。先に上げた異種金属腐食では、電池化しており、よりイオン化傾向の低い金属に電子を奪われて酸化が促進します。そうでないケースでも、「イオン化しやすいということはちょっとしたことで電子を手放しやすく酸化しやすいだろう」というのは、イメージとしてもっていただけるのではないかと思います。

尚、図4からわかるとおり、最もイオン化傾向が低い、すなわち酸化しにくそうな位置に金が君臨しています。これも、皆さんお持ちのイメージと合致するのではないでしょうか?

一方で、イオン化傾向が高い=即実環境で腐食しやすいのか?イオン化傾向順に腐食しやすさが決まるのか?と言われるとそう簡単な話ではなく、酸化物による保護等との複合要因となり、イオン化傾向はあくまで一要因ということになります。それでは、地金を保護するためには総合力で腐食に強い金属のめっきをしておけば良いのでしょうか?それはもちろん1つの解になりますが、別の保護機能をもつめっきもあります。めっきがどのように地金を守るのか、2つのめっきの「仕事の仕方の違い」を例に挙げて、説明します。

より腐食に強く、鉄を守るガーディアンタイプのブリキ=錫

金属の腐食し、錆とくれば、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは真っ赤に錆びた「鉄」ではないかなと思います。最近はさほどではないかもしれませんが、屋外で錆びてボロボロにもろくなった鉄製のいろいろものが、昭和の空き地にはたくさん転がっていたのを思い出します。そんな錆びやすい金属の代表格である鉄をめっきで守る代表格として、ブリキとトタンがあります。それぞれ鉄板の上にブリキでは錫(Sn)を、トタンでは亜鉛(Zn)をめっきします。

図5.ブリキとトタン

図6にそれらの構成と、イオン化傾向を整理しました。これを見て、「あれ?」と思った方もいるのではないでしょうか。ブリキに使われる錫(Sn)の方は、イオン化傾向も低く鉄をよく守ってくれそうですが、「亜鉛(Zn)は鉄より弱そうだぞ・・・」とか感じませんか?

図6.鉄(Fe)・ 錫(Sn)・亜鉛(Zn)のイオン化傾向

実際にブリキに施されるめっき材である錫は、イオン化傾向から見るように鉄より酸化しにくいことに加えて、酸化物が「腐食に対する3つの強さ」で説明したような防御壁となるため、そこで酸化が止まり腐食しにくいという特性をもちます(加えてこの酸化物が透明なため、装飾用めっき等にも使用されます)。つまり、鉄よりずっと腐食に強いので、前面に立つことで鉄を守るのです。まさに守護者=ガーディアンといった感じのめっきですね。

自ら錆びて鉄を守る身代わり地蔵タイプのトタン=亜鉛

一方のトタンに施されるイオン化傾向が鉄より高い亜鉛めっきはというと、酸化しやすく、酸化すると白っぽくなります。錫のような酸化物の防御壁機能も有してはいるのですが、敵に立ち向かう強さは錫には劣ります。しかしながら亜鉛めっきは別の機能で鉄を守ります。壊れてからが勝負、図7にめっきに欠損が生じてからのトタンでの地金保護のメカニズムを表しました。亜鉛が風雨に負けて穴が開いたとして、そこに雨等で水滴が侵入してきたとします。その部位では雨水が電解液となってちょっとした電池のような状態が形成されるのです。このとき、鉄が錆びるよりも早く、亜鉛は電子を奪われて酸化を始めます。そしてその奪われた電子は鉄に送られて、受けと取った鉄(酸化鉄)の部位では還元現象が起こります。亜鉛は自らが錆びていくことで鉄を守るのです。まるで身代わり地蔵のようなめっきですね。

図7.めっき欠損が生じたトタン板

尚、ブリキでめっきの欠損が起こった時は錫の方が電池の正極になりますので、地金である鉄がやられてしまいます。一方、先ほどの説明のとおり、錫はかなり腐食しにくい金属ですので外傷等で欠損しない部位では十分な耐食性をもちます。錫は金属としては柔らかい部類なので、ブリキの天敵は外傷と言えるでしょう。

この錫めっきはコネクタにも使われますが、電線で軟銅線に錫めっきを施したものもポピュラーです。では次に、銅と錫を比較してみます。

なぜ電線は銅線に錫めっきをするのか

電線には銅線、特にアニールされた軟銅を用いた軟銅線というものが主に用いられます。電線の中に入っている銀色の線です。高級・高性能のものには銀めっき(割とすぐ黒くなります)のものや、高耐熱樹脂が被覆されているものではニッケルめっきのものもありますが、だいたい錫めっきだと思っていただいて良いです。図8のように、細いものが何本かよられているタイプが多いと思います。

図8.錫めっき軟銅線

ここで質問ですが、なぜ電線は銅線に錫めっきをするのでしょうか?錫めっきを銅線に施す理由を検索してみると、多くのページで「腐食防止」と書かれているのを目にされるんじゃないかと思います。でも、実は銅ってそんなに腐食しないんですよね。何百年も前の銅や銅合金の鋳造物がしっかり形を残しています。めっきしていない電線だって早々腐食してダメになったという話も聞かないですよね?銅は貴金属に分類されるように、イオン化傾向でいえば錫よりずっと低いですし、酸化物が腐食を妨げるのは銅も同じです。少なくとも初期のちょっとした酸化に関していえば、錫の方が銅よりずっと早いんです。私は技術者としてコネクタよりずっと電線に近い仕事をしていましたが、錫めっきの目的が腐食防止、「下地金属の保護」であるというのは実は違和感があります。

では、なぜそのような話になっているのかというと、色合いと除去のしやすさに原因があるのではないでしょうか? 表1に、簡単に比較してみました。

表1.銅と錫の酸化物の色合いと除去のしやすさ

銅の酸化物 錫の酸化物
赤褐色→黒褐色へと変化し、緑青へと至る
(緑青が人体に有害と言うのは迷信)
透明で目立たない
除去のしやすさ 応力では除去しにくい
酸等の薬品で除去可能
銅と比べて破壊されやすい
薄くて錫より硬く脆いので応力で除去可能

なぜ銅線に錫めっきをするのか。それは、めっきの3つの目的で触れた分類でいうと、「機能」に分類されるメリットがあるためです。特に重要なのは下記の2点です。

はんだ付け性の改善

錫めっき線では、裸の銅に比べて圧倒的にはんだ濡れ性が高いので加工性が向上します。

被覆材料の長期耐熱性の改善

一部のプラスチック(特にプリオレフィン系のもの)は、銅イオンによって浸食され物性が悪化することがあります(銅害と呼びます)。これは高温下で長期に置かれるとより進行します。錫めっきがバリアとなることで、この進行を和らげます。

ここに来て、めっきが機能性をもつために施されるという話につながってきました。冒頭に説明したように、コネクタではこのめっきの機能性が重要です。それではようやく、コネクタのめっきと機能の話に移ります。

コネクタに使用される主な金属と特徴

コネクタに使われる主な金属とその特徴を表2にまとめました。これ以外にもステンレス、アルミニウム、亜鉛系金属(ダイキャストや合金)等も使用されますが、よく使用されるのは表にあるものです。

表2.コネクタに使われる主な金属

めっきに使用される金属 母材に使用される金属
ニッケル 錫・錫合金
(はんだ)

(タフピッチ銅)
銅合金
使用部位 下地めっき
(特殊な接点にも使用)
接点めっき バネ性を必要としない母材 バネ母材
導電率(%IACS) 25 15 108 73 100 10~80
はんだ濡れ性 ×
酸化被膜の接触阻害 やや除去しにくい ある程度の応力で除去可
(硫化が発生する環境で使用しない)
発生しない 除去しにくい 除去しにくい
備考 磁性金属磁性金属
(ニッケル燐で非磁性)
応力でウィスカ発生
(合金で軽減)
やや高価

イオンマイグレーション

(高湿や燐と反応で促進)

酸化より硫化
腐食しない

高価
安価

低抵抗
グレード多い

今回はめっきの話なので、ニッケル、錫、銀、そして金属の王様である金が、話題の対象となります。それでは、さらにくわしく、コネクタのめっきの機能とこれらの特徴について話を進めていきます。

正しく通電するためのめっきの機能

①接触を阻害させず、しっかりつなげる

コネクタが正しく通電するために、最表層で相手側との接触という重要な役割を担うのが接点部のめっきです。まず、接触を阻害されないためには、阻害するものが発生・付着しないか、発生・付着してもコネクタの嵌合の機構の中で確実に除去されることが必要になります。付着物・異物に関してはワイピング機能によって確実に取り除くことが必要ですが、めっき種によりませんので、ここではおいておきます(異物に強い当社の2点接点コネクタもよろしくお願いします)。

阻害するものとして発生するのは、ここまで何度も触れてきた酸化物等の腐食生成物です。ニッケル、錫、銀、金の4種のめっき材のうち、ニッケルは、摩耗性に強く、そこそこ導電率も悪くないので電池等の接点に使われます。腐食物も薄く形成されますし、半導体なので導通はします。ただしワイピングで除去がされにくいため、低く安定した接触抵抗が必要とされる部位には使いにくく、実際当社の製品ではニッケルめっきを接点に用いたものは現在ありません。

残る3種のうち金は腐食しません。接触に異物除去と密着のためにある程度の接圧が必要になりますが、電気的性質も優れているため、接点材質として死角なしといったところでしょうか。

電気特性では金より優秀な銀は、実はなかなか酸化しません。「ちょっと待って、銀って結構変色するよね?」という方がいらっしゃると思いますが、変色し最終的に黒ずんでくるのは、銀が「硫化」しているためで、亜硫酸ガス等の雰囲気中で問題になります。出来たものを除去するという発想よりは、そういう懸念のある環境の接続では銀めっきを使わないという選択が必要です(多少のことなら硫化防止処理を施したりもできます)。金よりずっとずっと安く、電気的には高性能な銀めっきですが、こういった環境の問題と、後述するイオンマイグレーションの問題もあって用途に制約が生じます。

図9.銀の硫化

錫めっきでは、表面に薄く透明の酸化被膜が形成されます。これは成長こそしませんが、割とすぐにできるので、コネクタは酸化被膜ありきで設計しなければいけません。錫の酸化物は、下にある錫より硬いため、必要な接圧をかけると錫の変形に追従できずパキッと破壊され(チョコレートコーティングされた、アイスクリームを噛んだ時のイメージですね)、そこからワイピングすることで取り除かれます。

結果として、コネクタに必要な接圧はおおざっぱに表現すると次のようになります。

金 ≒ 銀 << 錫

酸化の心配はあまりなく硫化環境を避けるので、銀めっきで必要となる接圧は、金と概ね同程度か多少高いレベルで良いです。一方で、錫めっきは酸化物をゴリっと除去するために、ある程度の接圧を確保しなくてはなりません。

②ショート不良を防ぎ、余計なところにつながらないようにする

さて、正しく通電するためには、間違えた接続が起こるリスクも排除しなければいけません。俗に言われる「ショート不良」と呼ばれるものですが、金属片等の異物で発生してしまう以外に、めっき材がそのリスクを引き起こす特性をもっている場合があります。まさに錫と銀は、それぞれ違う現象、メカニズムですが、リスクを抱えているのです。

まず錫は、応力がかかっていると、ウィスカという髭状の結晶物が伸びていきます。高温高湿下で成長が促進され、大きくなりすぎるとこれが隣のピンへ届いたり、成長したものが脱落してショート不良を引き起こしたりするリスクがあります。めっきの合金化や熱処理等である程度抑えられます。コネクタにおいても、リスクがある所に絶縁壁を設ける等の対策を取りますが、リスクはゼロになりません。よって、錫めっきは極間距離の狭いもの、狭ピッチのものには向きません。ウィスカは、走査電子顕微鏡(SEM)を使用し観察することで、信頼性を評価することができます。

図10.X線マイクロアナライザー SEM

一方の銀はイオンマイグレーションしやすい金属として知られます。これは電池等でも起こる現象で、正確ではない表現ですが「逆ガルバニック」のような現象です。電池でいうところの正電極の金属から、負極から放出される電子を「早くよこせ!」と言わんばかりに、樹氷状の結晶が触手のように伸びていくのです。この現象も高温高湿下で顕著になります。またリン酸等に起因して、助長されます (少し齢を重ねた方の中には、半導体の封止在中の赤燐によってHDD内部でマイグレーションが多発しリコールになった事件を記憶している方もいるかもしれません)。よって銀めっきは、先の亜硫酸ガス等の他にも環境を選んだり、あるいは錫めっき同様に狭ピッチを避けたりして使う必要があるのです。

「じゃあ、全部金めっきでいいじゃん!」ということになりそうですが、金はべらぼうに高いのです。コストでいうと

金 >> 銀 > 錫

という関係です。それゆえ可能な部分では、錫めっきや銀めっきといった接点が使われ続けているのです。

さて、ここまでの内容である、正しく通電するための課題を表3にまとめます。

表3.めっき種類と正しく通電するための課題

①しっかりつながる ②余計なところにつながらない コスト
万能 非常に高価
硫化環境を回避要 イオンマイグレーションの問題で制約有 やや高価
一定の接圧でのワイピング要 ウィスカの問題で制約有 安価
ニッケル 酸化被膜が丈夫なため困難 錫と銀の間くらい

今のところ、ニッケルは良いところなしですね。でも、使われているということは得意なところがあるのです。もう少し見ていきましょう。

ニッケルの特徴を活かしたニッケルめっきの機能

はんだ濡れ性が良いめっき・悪いめっき

コネクタは、基板にはんだによって実装されて使われることが主流ですね。一方で、コネクタの端子の母材に使われる銅合金等はイマイチはんだの付きが良くないのです。いわゆる「はんだ濡れ性」とかいわれる指標です。めっきはここでも活躍します。錫ははんだの主成分ですので、錫めっきは非常にはんだとの相性が良いです。銀もはんだと非常に相性の良い金属の1つで、錫と遜色ないほどのはんだ付け性の良さを誇ります。金も非常に良いはんだ濡れ性をもちます。合金層で金の比率が上がると脆くなることもあるようですが、通常コネクタのはんだ付け部に施される金めっきの分量では問題がありません。すなわち4種のめっき中3種ともはんだとの相性は良いのですね。

一方のニッケルめっきですが、良くないです。ステンレスやアルミよりは付きやすいけれど、銅よりもずっとつけにくいというレベルです。「またニッケルダメじゃん!」となりそうですが、そうではないのです。この「はんだに濡れない性」がニッケルめっきのもつ、コネクタ実装に必要な1つの機能になるのです。
尚、ソルダブルニッケルめっきという、はんだ付けに適した特殊なニッケルめっきもありますが、ここではやや蛇足なのでふれません。

はんだに濡れない性? ニッケルバリア

先に説明したように、金の銀も錫も非常にはんだの濡れ性が高いめっき材質です。濡れ性が高いので、実装の際には非常によく吸い上げます。図11を見てください。あまりにしっかり吸い上げてしまうため、はんだが望まぬ領域、例えば嵌合部まで来てしまうリスクがあります。

図11.全面金めっき・部分金めっき・ニッケルバリア

一方でニッケルめっきはなかなかはんだに濡れません。ニッケルめっき上に必要な箇所だけ金めっきを施した部分めっき(本来の目的は後述のコスト低減なのですが)では、ニッケルがむき出しになった部分ではんだの吸い上げが止まってくれます。また、非常に小さい端子で、部分めっきより一括金メッキが適しているようなケースでも、マスキング以外に剥離液やレーザ加工等によってニッケル部分を剥き出しにすることで、同様の効果をもたらします。このようにはんだの吸い上げをバリアするニッケルバリアこそ、ニッケルの「はんだに濡れない性」がもたらす、めっき機能の1つなのです。

ところで、金めっきの下地にはほぼ必ずニッケルめっきを施します(銀めっきの場合もです)。その目的は、ニッケルバリア同様、バリアとしての役割が目的ですが、もう1つのニッケルのめっきの機能の特徴ですので、次に紹介しましょう。

高価な金が消えてしまう? 金の浸食・拡散を防ぐニッケル下地めっき

金や銀は、銅・銅合金に侵食・拡散していってしまう性質をもちます。銀めっきでもそうですが、フラッシュと呼ばれるような薄いめっきが主流となってきている金めっきではより深刻です。せっかくの万能な、しかも非常に高い金めっきが銅の中にどんどん入っていって少なくなってしまうのです。果ては見た目に分かるレベルで消失してしまいます。

図12.金の浸食・拡散

そこでニッケルめっきの登場です。金も銀もニッケルには拡散していきません。そこで母材である銅・銅合金の上に、金めっきや銀めっきの下地としてニッケルめっきを施すことで消失を防ぐのです。これが2つ目のニッケルめっきのもつ機能です。

図13.金の拡散を防ぐニッケル下地めっき

金めっきの弱点と対策

性能はそのままで、金の使用量は少なく

2023年4月時点で、金は1g 9,600円強ととんでもない値段になっています。10年前の2倍くらいですね。ちなみに、以前は金よりずっと高かったプラチナは1g 5,000円強と金の約半分です。今でも日本レコード協会の売り上げ基準では、ゴールドディスクよりプラチナディスクが上には位置していますが、実世界では逆転していますね。

さて、性能的には万能な金ですが、このように非常に高価です。よって、コネクタのコストの最適化における歴史の中で、いかに金の使用量を少なくするかというのが1つの鍵となってきました。

必要な場所だけに付ける:部分めっき
機能するギリギリまで薄くする:厚めっき→薄めっき→金フラッシュ

部分めっきは下地のニッケルメッキの後、マスキング等で金めっきを施す部分を最小にする方法です。金フラッシュは、ASTMでは0.25μm以下の厚さ、実態としては0.1μmかそれ以下の厚さの非常に薄い金めっきです。現在では汎用コネクタのめっきでは、この金フラッシュがかなりのウェイトを占めます。フラッシュ以外の金めっきの方が特殊仕様といえるほどの勢いです。それにしても、1万分の1mm以下でも機能を果たす金は非常に素晴らしい金属ですね。高いけど・・・。

さてこれだけ薄くした金めっきですが、それに伴う弱点と対策がありますので、次はその話を。

万能無敵の金の弱点 ピンホール

金めっきの厚さが薄くなっていくと不完全な部分、具体的にはピンホールが増えていきます。その量はめっきの厚さに対して指数関数的に増減します。せっかく万能無敵の金が表立って表面で活躍してくれるというのに、ピンホールがあっては問題です。なぜ問題かというと、電解液の役割を果たす異物や雰囲気に接すると、ガルバニック腐食が起こり下地金属がやられてしまうためです。腐食生成物がもりもりと外へ出てきて、接触を阻害してしまうリスクも発生します。

金めっきのピンホールを埋める封孔処理

それでも金はともかく高価なので、なるべく薄くしたい。そこで、金めっきのピンホールを埋めてしまうために、封孔処理という手法が用いられます。図12はおおまかな封孔処理のイメージですが、簡単に言えば液剤で金に空いた穴を埋めてしまうのです。穴を埋めた後に、接触を阻害しない非常に薄い被膜が表面に形成され、下地金属の腐食を防ぎます。

図14.金めっきのピンホールと封孔処理

封孔処理剤には有機・無機、水溶性・油性等、さまざまなものが開発されており、その性能もどんどん高いものが出てきています。接点同士の滑り性を良くする効果をもつものもある等、耐環境特性はどの封孔処理剤を選ぶのかによってかなり違ってきます。そこで、使い勝手(生産性)と性能・信頼性等から封孔処理剤を選択していきます。性能の良いものを使うことで、かつては厚めっきしか使えなかった領域、例えば繰り返し嵌合数の多いものや、耐腐食ガスでの高い信頼性を要求される接続でも、以前より薄いめっきの選択が可能になっているケースもあります。

封孔処理ができているか確認する方法 塩水噴霧試験機

封孔処理を施したしたのちに「本当にピンホールがきっちり埋まっているのか?それを、どうやって確認するのか?」という点が気にならないでしょうか? 実際には、製品としての信頼性を開発段階からさまざまな耐環境試験にて検証を行っていくことで、有効性を確認していきます。先に上げた耐腐食ガスを確認する試験等は封孔処理の効果・性能に影響を受けやすい試験の1つです。他にも色々な試験がありますが、今回説明してきた内容と符合しメカニズム的にわかりやすいのは塩水噴霧試験ですね。塩水噴霧試験はその名の通り、ある一定条件下で製品に塩水を噴霧し続ける試験です。従来の目的は塩害による腐食への耐性を確認するための試験ですが、塩水はまさに電解液で、強制的に「電池化」をさせられますので、異種金属によるガルバニック腐食が懸念される部位の洗い出しにはもってこいなのです。めっきにピンホールがあり封孔処理がされていない、あるいは不十分なものは本試験で該当部に腐食が確認される等で洗い出せます。腐食促進条件との複合試験を行うことも可能で(実態はそちらの方が多いですね)、図15のような試験機が使われます。

図15.塩水噴霧試験機

厚い金めっきもまだある

フラッシュと呼ばれるごく薄い金めっきが主流にはなってきましたが、現在でも例えば0.38, 0.76あるいは1.0μmと厚い金めっきをもつコネクタ製品もあります。性能面ではより厳しい環境で使われる場合や、あるいはそもそもその用途で引用される規格で金めっきの厚さが規定されている場合等がこのけーすにあたります。一方で、金フラッシュ製品の耐性も上がってきていますので、特定製品の使用の可否等は、お気軽に弊社営業員にご相談いただくかWEBサイト経由でお問い合わせをいただければと思います。

最後に

「コネクタの端子にめっきをするのはなぜか?」について説明しました。まとめると、「コネクタの端子にめっきをするのはなぜか?」の答えは、「めっきに機能をもたせるため」と言えます。今回は、次のような機能を紹介しました。

コネクタのめっきの機能

  • ・接触を阻害させずしっかりつなげたり、ショート不良を防ぎ余計なところにつながらないようにしたり、コネクタが正しく通電できるようにすることができる。
  • ・ニッケルの特性を活かしたニッケルバリアによってはんだが望まぬ領域にいかないようにしたり、ニッケル下地めっきによって高価な金が銅等の下地に浸食、拡散しないようにすることができる。

それにしても繰り返しですが、金は素晴らしい金属ですが高いです。どんどん高騰しています。それだけ各業界でニーズがあり、そのニーズはさらに増加しているということなのですが、非常に厳しいです。コネクタメーカーとしては、いかに金を上手に使うかというのが長年の課題であり、それが競争激化のポイントです。どこかに大量の金の埋蔵が確認されるなんて夢のような話はあり得ないのでしょうから、当社も今後もその課題に真摯に取り組んでまいります。