コネクタメーカー イリソ電子工業

MENU

シングルエンド伝送と差動伝送におけるコネクタ性能差の理由Single-ended and differential

なぜシングルエンド伝送と差動伝送でコネクタ性能差が生じるのか

当社のホームページでは、基板対基板コネクタおよびFPC/FFCコネクタの対応データレートについての記載しております。

そのどちらも、「差動の100Ω系」を基準とした定義となっておりますが、時折「シングルエンドで使った場合はどうなのか?」というご質問を社内外からいただきます。詳細については事情をご確認した上で対応をさせていただくのですが、残念ながら「少なくとも同等の性能は期待できません・・・・」という回答になる場合がほとんどです。

タイトルの「シングルエンドと差動伝送におけるコネクタ性能差」について最初に結論を申し上げると、その違いの主たる理由は、反転信号の結合/カップリングによって伝送を行う差動伝送に比べて、シングルエンドの場合はシールドや他のコネクタピン等周辺の「設置された金属」に依存する比率がずっと高いためなのです。

近年、特にEMCの観点から基板内での高速伝送通信は差動伝送が主流となってきました。だからと言って、シングルエンド伝送の高速伝送接続のニーズがなくなったわけではありません。一方で、差動伝送とシングルエンド伝送では高品位の伝送路を構築するためのアプローチが異なってきます。シングルエンド伝送用には多くの同軸コネクタ/ケーブルが市場で活躍し続けていますし、当社でも車載同軸カメラソリューションとして非同軸構造ながら高速シングルエンド伝送を実現したコネクタのご紹介もしています。

しかしながら、それぞれ差動伝送の高速伝送に使用されるコネクタとはやや毛色が変わっています。今回は差動伝送とシングルエンド伝送の特徴から、なぜコネクタにそのような違いが生じるのかについて、可能な限り「イメージとしてとらえられるような」形で説明をしていきたいと思います。

「シングルエンド伝送」 「差動伝送」 「コモンモード伝送」 とは

3種の伝送モード

伝送路の信号伝送のモードには大きく分けて3種があり、それぞれ別の呼び方をされます。まとめたものが、表1です。また、当社の用語集でも差動信号について説明していますので、併せてご参照ください。

普通の2芯伝送
(シングルエンド)
差動伝送 コモンモード
主な呼び方と組み合わせ 不平衡 平衡
アンバランス バランス
シングルエンド伝送 差動伝送 コモンモード伝送
シングルエンド伝送 ディファレンシャル コモンモード
オッドモード イーブンモード

表1 3種の伝送モード

それぞれがどのようなものなのか? 下記の信号を送る場合を例にご説明します。

送る信号

① 普通の2芯伝送/シングルエンド

普通の2芯伝送/シングルエンド

図1 普通の2芯伝送/シングルエンド

一番シンプルな伝送モードです。リファレンスとなる0Vのライン(グランド/GND)に対して、信号ラインに信号電圧を印加してあげる方法です。出口側での信号ラインのリファレンスからの電位差が出力信号となります。信号ラインを通って行く中で、外からの悪い影響を受けたり劣化したりしなければ出口で入れたままの信号が取り出せます。

② 差動伝送

差動伝送

図2 差動伝送

次は差動伝送です。①の伝送に加えて、送りたい信号を反転したものを印加するライン=信号ライン②が加わります。この理由、メリット等は後程別項で説明します。出口側では、正信号と反転信号の「差分」を取って元の信号に復帰させるので、差動伝送といいます。尚、リファレンスであるGNDラインは設けなくても伝送が成立することも特徴です。

③ コモンモード伝送

コモンモード伝送

図3 コモンモード伝送

最後にコモンモード伝送です。差動とは逆に2つのラインに同相の信号を乗せて送ってしまう方式です。この方式単独では、伝送に使われることはありません。むしろノイズ源として扱われることの方が多いです。信号伝送の利用される局面としては、出口側で差動信号との分離がしやすいので、差動伝送時の副次信号伝送として使われることがあります。
分離しやすいとはどういうことかというと、出口で足し算をすると差動信号が消え、コモンモードは2倍になり、逆に引き算をするとコモンモード信号は消え、差動信号は倍になるのです。よって出口側で分離可能な異なる複数の信号を送る手法といて利用されます。通常コモンモードの信号は、同時に送られる差動信号よりずっと遅いものになります。

それぞれのモードの大まかな構成は上記の通りですが、各々の特徴、特にメリットはどのようなものなのでしょうか?3つの伝送モードのうち、③のコモンモードは主流の伝送方法ではなく、またシングルエンドの亜流とも捉えられますので、シングルエンド伝送と差動伝送に絞って説明していきたいと思います。そちらへ進む前に改めて普通のシングルエンド伝送と差動伝送のイメージ比較を図4に示します。

普通のシングルエンド伝送と差動伝送のイメージ比較

図4 シングルエンド伝送と差動伝送のイメージ比較

「シングルエンド伝送」「差動伝送」のメリット・デメリット 

シンプルなシングルエンド伝送と差動伝送での接続数の増加

まずこれはシングルエンド伝送のメリットになろうかと思いますが、信号がシンプルなの伝送路の構成、よってそれらの接続もシンプルになります。前項での図を少し立体的に描くと、図5になります。

普通の2芯(1芯対GND)伝送

普通の2芯(1芯対GND)伝送

普通の2芯(1芯対GND)伝送

差動伝送

図5 1レーン時の比較

しかし、差動伝送でGNDプレーンがなくていいこともあるので、これではあまりメリットがあるようには見えませんね。
それでは複数の信号を送る場合はどうでしょうか?図6は、4本の信号を同時に送る場合のイメージ図です。シングルエンド伝送でも差動伝送でも、GNDは共通のものにすることもできます。また実際には双方のケースで各信号ラインの間にクロストーク対策のGNDラインが入ることもありますが、ここでは省いています。

多重差動伝送

多重差動伝送

GND共通の多重シングルエンド伝送

GND共通の多重シングルエンド伝送

図6 多レーン時の比較

図6の比較だと、差動伝送に比べてシングルエンド伝送がだいぶ簡略化されている、逆に差動伝送は「余計なラインがたくさん要る」という点が見えると思います。これはシングルエンド伝送の非常に大きなメリット、差動伝送のデメリットです。そのため、特に伝送路としての品質の厳しくない低速伝送コネクタでは、シングルエンド伝送が主流となっています。それでは何故、そのようなデメリットがあったとしても、特に高速伝送コネクタでは差動伝送が使用されるのでしょうか。

高速伝送で差動伝送が使用される理由

ノイズに強い差動伝送

高速伝送コネクタで差動伝送が使用される理由、それはシングルエンド伝送に比べて「ノイズに強い」からです。
まずに、「ノイズを出す」方から、簡単なイメージをもっていただきたいと思います。差動信号は正信号と反転した負の信号からなります。「+」と「-」です。合わせると打ち消しあいます。よって非常に簡単にとらえると、図7のようなイメージになります。

ノイズに強い差動伝送

さらに、図7でもうほんの少しだけ、技術的なイメージをもっていただきましょう。ノイズは、特に信号が変化した際に発生します。その際発生するノイズは、「変化の仕方」に依存します。差動信号では、隣り合ったラインの信号が全く逆の挙動で変化しますので、それぞれから「ちょうど逆になる」ノイズが発生するのです。よって、完全にではありませんが、ノイズ同士が「割と」しっかり打ち消しあうので、差動伝送はシングルエンドに比べてノイズを「出しにくい」のです。

差動伝送とノイズの発生

図7 差動伝送とノイズの発生

ここで、少しだけトリビア的なお話を交えます。2001年頃、上記差動の低EMI、低エミッションの良さを”ある程度”もったままシングルエンドのように少ない線路数で低コストのデバイス実現できるとして提唱された手法があります(興味のある方は”JAZiO”で検索してみてください)。大まかなイメージとしては、「複数の信号線に対して、反転信号を足し合わせたものを別のラインで一括して送る」というものです。簡単に図示すると図8のようになります。

JAZiOのコンセプト概要

図8 JAZiOのコンセプト概要

確かにこの手法であれば「遠くから見たらゼロ」の要件は満たします。信号ラインとキャンセルラインの間の物理的な距離があるので、純然たる差動ほどではないにしても”ある程度”低エミッションの特性はもちそうです。しかしながら、高速信号で差動伝送が席巻していく中で、この手法が実用デバイスに応用されたという話はとうとう耳にすることがありませんでした。ひょっとするとその一因は、この方式では次に説明する「ノイズを受けた場合の差動伝送のメリット」が期待できなかったこともあるのかも知れません。

ノイズを受けた場合の差動伝送のメリット

ではそのノイズを受けた場合について説明していきます。図9は、外来ノイズを受けた差動信号ラインのイメージ図です。差動信号では正信号と反転信号のラインが比較的近しい場所、主には隣接して配置されていますので各々が「同じようなノイズの影響」を受けます。さて、先に説明したように差動伝送では出口で各々の出力を「引き算」します。この時に「同じようなノイズ」はあらかた消去されてしまい、信号への影響を与えにくくなります。

外来ノイズを受けた差動線路イメージ

図9 外来ノイズを受けた差動線路イメージ

気づいた方も多いと思いますが、これはコモンモード伝送と差動伝送の関係に似ていますね。外来ノイズは概ねコモンモードのノイズとして信号ラインに襲いかかります。差動伝送にはこれをキャンセルする仕組みが備わっているため、シングルエンド伝送に比べてノイズを受ける方、EMS/イミニュティ的側面から見ても強いのです。

差動伝送のメリットはカップリングによる帰路電流の削減(0になると思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、GNDプレーンがある場合は実はちょっぴり残ります)による抵抗損の軽減等、他にもあります。また、差動伝送の課題としては180°からのズレをいかに少なくするか等あり、これは高周波にいくにしたがって厳しくなっています(Skewやコモンモードコンバーション等のパラメータで査定される内容です)。

「シングルエンド伝送」と「差動伝送」の比較まとめ

ここまでの比較をまとめたのが、表2です。有利な方を朱記強調しています。

  シングルエンド 差動
ライン/接続数
EMC耐性
低ロス化/長距離伝送(比較) やや不利 やや有利
チャネル内位相差管理 不要

表2 シングルエンドと差動の優劣点比較

では次に、ようやく今回の本題であるコネクタ性能の違い、すなわち適切な伝送路構造に違いが生じる理由について話をしていきます。少しややこしいですが、ここでは線路の周りに形成される「電界」をイメージしながら線路構造の話をしていきたいと思います(厳密には磁界も併せて考えるべきなのでしょうが、イメージのしやすさを優先して電界に絞って説明していきます)。

「シングルエンド伝送」と「差動伝送」で伝送路構造に違いが生じる理由

電界と電気力線、電荷と電流

まず電界とはどういうものか、説明させていただきます。正確さより簡便な理解を優先した説明になりますので、大学などで電磁気学を習ったという人は飛ばしていただければと思います。


最初に電荷というものが定義されます。平たく言えば電気のエネルギー、身近で言えば身体にたまる、あのビリっと来る静電気のようなものです。この電荷の周りには、周辺に電気の影響を及ぼす場=電界というものが発生します。これは電荷のそばほど強くて遠くに行くほどどんどん弱くなります。無限遠あるいは接地された導体の所まで行くと、この電界は消えてなくなります。一個の電荷が空間にある所の電界のイメージを下の左側に青のグラデーションで描いてみました。”阻害するものがないと”こういう感じになります。その右側には、赤線で電気力線というものを書き込みました。電気力線は、電界の向かっていく方向に矢印として、元となる電荷の強さに応じた本数で書くもので、電界が強い部分では電気力線は密になり弱くなると疎になっていくので電界の形成された状態をビジュアルで把握するのに便利なものなのです。

電荷の周りには電機の場=電界が発生し電荷の回りほど強い

電荷の周りには電機の場=電界が発生し電荷の回りほど強い

電界が対程密で、弱くなると疎

電界の発生する方向に電荷の強さに応じた本数の電気力線を引く
電界が対程密で、弱くなると疎

図10 電界と電気力線、電荷と電流

図示したのは一番シンプルな状態ですが、この電界は周辺に別の電荷や、導体があると引き寄せられたり互いの電界が反発しあったりと影響を受けます。また電荷には正=“+”のものと、負=”-“のものが定義できます。同じ符号同士は反発しあい、逆の符号では引き付け合います。

さてここで、信号が流れる時は電流が流れていると言ってしまっても良いですね。電流というのは電荷が動いていく状態なのです。電流が流れている導体の周りには同じように電界が発生します。交流の電流であれば、同じ場所にとどまってみた場合は上に上げた電界の「おおもと」の強さが変化していってることになります。差動信号のように反転した信号同士であれば、それぞれを正電荷と負電荷と見なして同じように動き置き換えることができます。そこで次からは、信号を正電荷や負電荷に置き換えた時の電気力線の様子として、シングルエンドや差動伝送の電界の状態を見ていきたいと思います。

シングルエンド伝送にはリファレンス=GNDがより重要

下記に、リファレンス=GNDが存在しない場合の電気力線によるシングルエンド伝送と差動伝送の電界のイメージを描きました。見ていただけるとわかると思うのですが、差動伝送では電界が「閉じよう」としている感じがあります。これは反転した信号、下記でいうと「+」と「-」結合/カップリングによって、電界が収まろうとするためです。

一方のシングルエンド伝送では放射状に発散してしまっています。

シングルエンド伝送周辺の電界

シングルエンド伝送周辺の電界

差動伝送周辺の電界

差動伝送周辺の電界

図11 シングルエンド伝送と差動伝送周辺の電界

少し乱暴な言い方になりますが、この電界が収まっていないと伝送線路の基本性能である特性インピーダンスが安定しないのです。伝送路やコネクタの設計において、元々おさまりのやや良い差動伝送は比較的融通が利くのですが、シングルエンド伝送ではこの暴れん坊な電界をなんとか抑え込む必要があります。そのため、差動での高速伝送用に最適化されたコネクタでは、シングルエンドの信号はその電界が収まらず期待する性能を発揮でいないのです。

では、発散してしまう電界を抑え込むにはどうしたらよいかというと、接地された金属を周辺に設置することが効果的です(ダジャレのようになりました・・・・)。電気力線はGNDプレートに垂直に侵入するように当たり、そこで終息するという性質をもちます。例えば、上のシングルエン伝送ドのような電界が発散した状態に、接地された金属体等で覆ってやると極めて安定した線路に生まれ変わります (後述する同軸構造になります)。そこまで出なくとも、相応のリファレンス=GNDで電界を落ち着かせてやる必要があります。そのあたりのイメージが比較的つかみ易い例だと思いますので、次にGNDプレートによってシングルエンドの電界が差動のそれのようにふるまわせることができる設置の仕方を説明します。

シングルエンド伝送が差動に化ける:リファレンス=GNDプレーンは「鏡」

シングルエンド伝送の線路の左側に上下に十分長いGNDプレート=シールドを置いてみます。「電気力線はGNDプレートに垂直に侵入する様に当たり、そこで終息する」と書きましたが、それによってシールドの向こうに”鏡に映った自分”が要るように電気力線がふるまいます。鏡ですので、反転します。図13にそのイメージを描きましたが、まさにこれは差動伝送ですね。逆の見方をすると差動伝送では、既に一枚「大きなバーチャルなGNDプレートをもっている」という見方もできます。差動伝送の説明で記載した「リファレンスであるGNDラインは設けなくても伝送が成立」するのもこのバーチャルなリファレンスのためです。そのため、高速伝送におけるコネクタ構造に「比較的融通が利く」のです。

ミラー効果と差動伝送

図12 ミラー効果と差動伝送

さてこのように、シングルエンド伝送でも、GNDプレート一枚でも、差動程度の電界の収まり具合にはもっていけることがイメージしていただけたかと思います。しかしながら実際には、例えばコネクタで”上下に十分(厳密には無限に)長いシールド”を有することは現実的ではないことの方が多いです。また、上の図はある一断面を切り取ったものですが、この電界の状態を保つにはシールドは前後にも十分な長さをもっている必要があります。途切れると電界はまた元の暴れん坊に戻ってしまいます。加えて鏡も曇っていたり傷がついていたりすると鏡像がぼやけてしまうように、正しく差動と等しい状態を再現するためには、シールドの電気抵抗値がゼロでなくてはなりません(超電導ですね)。

よって現実では、高速のシングルエンド伝送にはシールドに使う金属の特性や構造的制約から工夫しながら、”いい塩梅に”GNDプレーンとなるシールド部分を配置していく必要があるのです。そのためにはシールドがない状態に対極として、伝送線路やコネクタとして一番完璧に近い状態である同軸構造を知ることが近道と思いますので、そちらに話を移していきます。

同軸構造と電界の安定、最適な線路へ

シングルエンド伝送にはリファレンス=GNDがより重要」ので、シングルエンド伝送の線路は「接地された金属体等で覆ってやると極めて安定」すると説明しました。実際にぐるっと周辺を覆ってやると下記のようなイメージになります。

接地された金属体等で覆うと安定するシングルエンド伝送

図13 接地された金属体等で覆うと安定するシングルエンド伝送

信号線路に対して、同じ軸をもった同心円にリファレンスをもつ構造を、そのまま「同軸構造」と呼びます。電気力線の元々の方向性を維持したまま、電界がきれいに収まっています。また、空間中電界(電気力線の分布)が非常にきれいに配置されていることも見ていただけると思います。このようにきれいで規則的な電界構成になるので、線路の重要特性である特性インピーダンスも比較的シンプルな形で表せます。

同軸線路の基本構成と特性インピーダンス

図14 同軸線路の基本構成と特性インピーダンス

線路となる内導体とリファレンスとなる外導体に径の比率と、充填する誘電体の誘電率で一義的に決まります。それゆえ、同軸構造は特性インピーダンスの調整も比較的楽なのです。シングルエンド伝送路として、まさにシンプルイズベストな回答となります。

コネクタでは、接続部でもいかに同軸構造を維持するかが性能向上のポイントになるため、オスとメスの嵌め合いがピタッとはまるように、例えば下記のような嵌合構造をもちます(絵心が乏しくて申し訳ありません・・・・)

同軸コネクタ嵌合部イメージ

図15 同軸コネクタ嵌合部イメージ

このシングルエンド伝送+同軸構造が、伝送路やコネクタとして高速伝送には最強なのです。差動伝送では「比較的融通が利く」としたように、ある領域まではシングルエンドより高速伝送用の線路や接続を構成しやすいのですが究極の所に行くと、このシングルエンドと同軸の組み合わせのような完璧なマッチングがないのです。例えばミリ波帯の信号へ向かうときは、差動内の”結合を殺して”同軸2本で送付してしまうのが、現状一番簡単に性能を担保できる手法になることもあります。

一方で、同軸構造には、低コストの実現と、高速伝送以外の機能と併せての実現という課題が付いて回ります。

同軸構造からの逸脱と接近

同軸コネクタは要求性能との見合いで、局所的に同軸構造から逸脱させることで使い勝手を良くしたり、機能を加えたり、あるいはコストダウンを計ったりします。一番多いものは、基板との実装部を同軸構造から逸脱させていく方法で、作業性を優先する場合は大きく外れ、性能が厳しい時は極限まで同軸構造を維持し逸脱を最小限に抑えます。またフローティング/可動機能をもたすために、基板との接続部にバネを追加したり、図17のようにすり鉢状の受け皿で軸となるコネクタがずれることを許容したフローティング同軸コネクタもいくつかのコネクタメーカさんより製品化されています(後者は規格化されたものもあります)。

基板実装部の同軸構造からの逸脱

基板実装部の同軸構造からの逸脱

すり鉢状の受け皿で動きを許容

すり鉢状の受け皿で動きを許容

図16 同軸構造からの逸脱

当社ではまだ製品化をしていませんが、「フローティングのイリソ」としてこの辺りも開発ターゲットになっています。こちらは、構想図の一部です。

可動多連同軸の構想図

図17 可動多連同軸の構想図

一方で、非同軸構造から同軸のもつ高速伝送性能に近づけるため、構造を寄せていくケースもあります。ある程度の年齢の方は覚えてらっしゃる方も多いかと思いますが、かつて主流であったディスプレイ用の標準IFであったDVIには、アナログのシングルエンド伝送用に、十字を切ったGND端子で同軸に近い状態を再現した端子がありました。

DVIコネクタ

図18 DVIコネクタ

またバックプレイン用に、コネクタにおいてもシングルエンド伝送への対応で多くのGND端子やシールドが使われており、同軸の状態に寄せていっていることがわかります。当社の取り組み事例では「車載同軸カメラソリューション」で紹介させていただいている、同軸用のコンプレッションコネクタもその一つです。可動のコンプレッション型コネクタに、リファレンス=GNDとなる金属部品を適切に配置して、非同軸構造ながら疑似的に同軸性能を実現したコネクタになります。

可動同軸用コンプレッションコネクタ

図19 可動同軸用コンプレッションコネクタ

このようにシングルエンド伝送での高速伝送では、同軸構造が「教科書」となって、そこからの逸脱と別の構造からの接近によって用途に向いたものが作られます。特に後者は「シングルエンド伝送にはリファレンス=GNDがより重要」で言及した、「”いい塩梅に”GNDプレーンとなるシールド部分を配置していく」をそのまま実践するものです。そのままでは電界が発散してしまうシングルエンド伝送用のコネクタでは、このシールドの設け方が差動と比べてもずっと大事なポイントとなってくるのです。

まとめ

今回のテーマはなかなか端的な説明が難しく、かなりのボリュームになってしまい申し訳なく思います・・・それでも同じXX GbpsやYY GHz対応と言っても差動伝送とシングルエンド伝送では異なる点、コネクタ開発のベクトルもそれぞれ違うんだなということをご理解いただけたら幸いです。また、本稿をきっかけに興味をもたれて、よりくわしい内容を調査されたり学習されたりする方がもしいらっしゃったら非常に幸せなことです。あるいは「あそこの考え方は違うじゃないか」「こういう事例を紹介した方がわかりやすいんじゃないか」等のコメントもいただければ、大変うれしいです。

イリソ電子工業では、これまで差動伝送の高速伝送対応コネクタにプラスアルファの機能付け加えた製品をいくつか世に送り出してきました。シングルエンド伝送に関しても、少しずつお目見えできる機会も出てきましたし、他にも継続して鋭意開発中です。そちらも単なる「高速伝送対応」では当社らしくないので、何らかの別の機能やメリット併せもつような製品としてどんどんと皆様の目に留まるようになる日まで精進を続けていきます!

こちらに、当社の高速伝送コネクタへの様々な取り組みや車載同軸カメラソリューションについて掲載しています。ぜひご覧ください。